市民に代って、事実に関する情報を集め、整理し、その中から意義を探り出して市民に伝えるのがジャーナリストの役目であるとすれば、環境問題の実像を知ることについて、読者は本書に多くを期待できる。実際のところ、ピューリッツァ賞を三度も得る人物は、これほど多様で多くのキーパーソンたちに会い、佳境を訪れることができるのかと、感心させられる。著者はそれらの出会いから得られたものを自分の驚きとともに伝えるので、読者もまるで自身の経験が広げられるように感じるのである。
上巻は主に、気候変動を中心とした問題の現状を探る旅である。その間、著者の姿勢は一貫していて、この困難をなるべく正確に、正面から受け止めて、それに対処する道筋を努力して切り開いてゆこうというものである。リ・ジェネレーション、再生の世代となろうという。そのキーとなる概念は“持続性”である。「常に責任をとる持続性の約束」こそが鍵であるとされる。手法として心すべきことは、「統一のとれたやり方」をとることである。現代は、問題を分離して考える専門家によってなっている。各問題に固有の闘士、支援者、政治目標がある。しかし今起きている事態に対しては、すべての専門家が一緒に、現場で起きていることに応じる必要があるというのだ。
下巻では、より具体的な対処を個々に論じることになる。それは、グリーン革命は革命であって、グリーン・パーティでもグリーン幻想でもないのだ、ということへの確認から始まる。気候システムを変える、生態系の保護・回復を行う、石油依存を解消し打開する。これらの目標を掲げることは、政治的には厳しい選択を伴うに違いないのだ。著者が描いているのは、社会変革を産業変革を通して行うことであり、それは政策(主に税制と規格化)によってイノベーションを生み出す市場づくりを行うことで現実のものとなるとされている。当然のことながらその過程では、既存の産業と生活のシステムに、多くの負担を強いることになる。この変革を生きる覚悟と勇気を本書は求めている。
巨大化した産業が生み出した問題を、産業自体の自己変革を軸として解決するというシナリオが、単純で楽観的に過ぎるという批判はあり得るが、グローバルな規模で産業に急制動をかけることが現実的でない限りにおいて、グリーン化はとるべき最善手の一つである。
また、本書が直接に語りかけているのは、アメリカ人とアメリカ社会に対してであり、当然その口調に抵抗が感じられるだろうが、環境負担の上に築かれた繁栄を生きる黄金の10億人のすべてが、同じ責任を負うべきこともまた明らかである。
グリーン革命 〔増補改訂版〕
(上・下)
温暖化、フラット化、人口過密化する世界
トーマス・フリードマン
伏見威蕃 訳
日本経済新聞出版社
(2010/6/19)
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私が世界の“フラット化”と名づけたものの利点は、現在利用できるネットワークや高速の旅によって多くの人々が接続して有意義な共同作業を行なうことにある。欠点は、多くの人々が持続的にではなく場当たり的に接続することだ。イギリスの預金者がマウスをクリックしてアイスランドの銀行に送金できるなどということを、誰が想像しただろうか?だが、フラット化した世界ではそれができる。そして、テクノロジーで接続していて、リスク管理と適切な金融についての持続可能の価値観がかけていたために、こうしたイギリスの預金者は自分たちが認識していなかった深刻な金融危機にさらされた。
自然界にも同じことがいえる。現在では、いまだかつてない数の人々が資本、コンピュータ、労働、テクノロジーを手に入れて、成長と発展に拍車をかけることができる。しかし、こうした人々がすべて持続可能の価値観ではなく、場当たり的な価値観に従って自然を取り扱ったなら、地球はあっという間に、フロリダの小規模ショッピングモールみたいになってしまう。pp.83-84
目次
- 上巻
- 第一部 市場と母なる自然が壁にぶち当たるとき
- 第1章 市場と自然の同時崩壊
- 第2章 無能がいちばん
- 第3章 リ・ジェネレーション
- 第二部 現状
- 第4章 エネルギー気候紀元
- 第5章 アメリカ人が多すぎる ―エネルギーと資源の需要と供給
- 第6章 独裁者を満タンにしつづけるのか? ―石油政治
- 第7章 地球惑乱 ―気候変動
- 第8章 ノアの時代 ―生物の多様性
- 第9章 エネルギー貧困
- 第10章 グリーンこそがアメリカの新しい旗印
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- 下巻
- 第三部 前進の道すじ
- 第11章 地球を救う二〇五の簡単な方法
- 第12章 エネルギー・インターネット ―ITがETと出会うとき
- 第13章 石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない
- 第14章 グリーンは退屈なもの
- 第15章 一〇〇万人のノア、一〇〇万隻の方舟
- 第16章 アルカイダにグリーンで勝つ(一つ買えばおまけが四つ)
- 第四部 中国
- 第17章 赤い中国はグリーンな中国になれるか?
- 第五部 アメリカ
- 第18章 一日だけ中国になる(でも二日はだめ)
- 第19章 民主的な中国か、それともバナナ共和国か?
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