環境文学
環境詩:「芭蕉狂句」
芭蕉狂句
星野連生院
奥の細道を 詠いし 古(いにしえ)の俳聖 夢に甦りて 花鳥風月滅びゆくを 狂はんばかりに 悲しみ憤りて
草の戸は 朽ち果ていたり 雛も泣く
逝く春や 鳥は喉裂け 魚の目爛(ただ)れ
狂(ふ)る池に 蛙の屍(しかばね) 水を病み
温暖や 月さえ火照り 日は燃える
焼き焦がす 青葉若葉を 陽は灼熱ぞ
温暖や 瀧に逃げるか 夏(げ)の酷暑
木啄(きつつき)も 嘆き叩くか 夏枯木
田荒れて 飢えた稚児(ちご)泣く 柳かな
卯の花も 枯れて飾れぬ 襤褸着(ぼろぎ)かな
笈(おい)も太刀(たち)も 滅びにけり 端午を呪う
夏草や 獰猛(つわもの)どもが 喰らいけり
五月雨の 降り腐らせし 光堂
蚤しらみ 馬まで喰うか 飢餓地獄
閑(しずか)さや 岩をも溶かす 灼熱烈火
さみだれや あつめて速やし 塵芥(ちりあくた)
苦るしさや 毒を香おらす 涙川
温暖に 佐渡も咽(け)ぶるか 天の川
一星に 民ども居たり 生き地獄
塚も動け 民泣く声は 熱の風
秋暑く ひび割れ悲し 瓜茄子
あかあかと 陽は面(つら)焦がす 秋の果て
無惨やな 廃虚に朽ちる きりぎりす
火の山の 岩より熱し 秋の風
山中や 菊も枯れたり 毒の香(こう)
名月も 灼熱日和(びより) 宿命(さだめ)かな
蛤の 蓋歪めるは 毒の影
終夜(よもすがら) 爆風聞くや 屍(しかばね)の山
月熱く 聖(ひじり)も火照る 砂まみれ
大地病みて 夢は枯れ野を 駆けめぐる
二〇〇四年一月二日、軽井沢にて 自然危機と戦争危機を、憂いて詠める 「環境俳句」の試み。
芭蕉『奥の細道』の変歌、異歌、狂歌。 句中の「一星」は「地球」を指す。 |